入浴剤の基本的な効果は、入浴そのものによって得られる温浴効果(身体を温める、痛みを和らげる、等)と清浄効果(汚れを落とす、皮膚を清浄にする、 等)を高めることにあり、この考え方を基に、商品に表示あるいは広告できる具体的な効能が医薬品医療機器等法で定められています。これらについては「法規」に記載してありますので、ここでは代表的な成分が持つ働きとそのメカニズムについて紹介します。
1.無機塩類系入浴剤
(硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、塩化ナトリウム、等を主成分とするもので、剤型的には粉末、顆粒が多い)
このタイプの最大の特徴は、塩類が皮膚の表面の蛋白質と結合して膜を形成し、この膜が身体の熱の放散を防ぐために、入浴後の保温効果が高く湯冷めしにくくなるということです(図1)。
特に硫酸ナトリウム(芒硝)は皮下組織の賦活作用、修復作用などがあり、あせも、ひび、あかぎれ等の予防にも効果があります。
また、炭酸水素ナトリウム(重曹)は石鹸と同じように皮膚の汚れを乳化し、清浄効果を有しています。
各地の温泉地名をつけた商品が発売されていますが、無機塩類系入浴剤に分類されます。
入浴剤の保温効果事例について
下図は、入浴前後のさら湯(淡水)浴と無機塩類浴の皮膚表面温度の変化を表わしたものです。 入浴後、無機塩類浴は、さら湯(淡水)浴に比べ、皮膚温度の低下が抑えられ、保温効果が持続していることがわかります。
2.炭酸ガス系入浴剤
(炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等とコハク酸、フマル酸、リンゴ酸等を組み合わせたもので、剤型的には錠剤や粒状)
このタイプは炭酸ガスの血管拡張作用を有効利用したものです。湯に溶けた炭酸ガスは皮膚から吸収され、容易に皮下内に入り、直接血管の筋肉へ働きかけ血管を拡げます。血管が拡がると末梢血管の抵抗が弱まるので血圧が下がり、血流量が増えます(図2)。その結果、全身の新陳代謝が促進され、疲れや痛み等が緩和します。同時に温かい湯に入っているならば血液が体表面の熱を全身へと運び、身体の芯まで温まることになります。なお皮下内に入った炭酸ガスは、肺から呼吸によって体外へ出されますので、身体の中に蓄積するようなことはありません。
3.薬用植物系入浴剤
(センキュウ、トウキ、ボウフウ、チンピ、カミツレ、ハッカ葉等の生薬を配合しており、生薬をそのまま刻んだもの、生薬のエキスを取り出して他の成分と組み合せたもの等種類は色々)
このタイプの効果は生薬の種類によって異なりますが、生薬に含まれている成分の働きと、独特な香りの働きからなりたっています。生薬はそれぞれ長い歴史の中から生まれ、その効果は医療薬として、日本ばかりでなく欧米でも高く評価されています。またお茶の水女子大学と日本浴用剤工業会の共同研究によりトウキ、トウガラシ、ウイキョウ、センキュウ、チンピ、ショウキョウには、血行促進効果が認められております。そのメカニズムについて最近盛んに研究がなされ、徐々に解明されつつあります。
もう1つの効果『香り』については、生薬に限らず"アロマテラピー(芳香療法)"が注目され、研究の対象となっています。香りによるリラックス効果は脳波や自律神経等の測定により解明されてきています。
4.酵素系入浴剤
(蛋白質分解酵素、パパイン、パンクレアチン等の酵素を配合したもので、無機塩類と組み合わせて使うことが多い)
酵素は医薬品の消化剤や洗浄剤等によく利用されますが、人間はもちろん、微生物や植物などの生物の体の中で作られ、蛋白質や脂肪、澱粉等を分解して消化や洗浄を助ける効果をもっています。入浴剤に酵素を配合する目的は、皮膚に無理な刺激を与えず、清浄にすることで入浴効果を高めることがあります。
5.清涼系入浴剤
(l-メントール、炭酸水素ナトリウム、硫酸アルミニウムカリウム等を配合したもので、剤型的には粉末、顆粒、錠剤が多い)
このタイプは、主にl-メントールを配合して冷感を付与させたものや、炭酸水素ナトリウム、 硫酸アルミニウムカリウム等を配合し、入浴後の肌にサッパリ感を付与させたものがあります。
6.スキンケア系入浴剤
(セラミド、米胚芽油、エステル油、スクワラン、ホホバ油、ミネラルオイル、植物エキス、米発酵エキス等の保湿成分を主に配合したもので、剤型的には液体、粉末、錠剤が多い)
このタイプは、保湿成分が入浴中に皮膚に吸着浸透し、スキンケアを行うものです。特に冬の乾燥時は、入浴後過度に角層中の水分が失われ、お肌のかさつきが起こりやすくなっており、入浴剤によるスキンケアが重要となります。また入浴で膨潤したお肌は、浸透し易い状態になっているため、保湿成分が肌の表面に吸着するだけではなく、角層内部にまで浸透していきます。その結果、入浴後はお肌がしっとり、すべすべになります。